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なぜ八百万の神々は神無月に出雲に集まるのか
~10月の行事を学び直す~

■「季節行事」の意味と由来を知る・10月編

◆なぜ神々は出雲に集まるのか? 集まって何をしているのか?

 では、なぜ出雲のなのか? なぜ神道の最高神といえる天照大神が鎮座する伊勢ではないのか?

 それを明確に説明しているものはない。一般的には『日本書紀』に記されている国譲りの際の取り決めによるとされている。

 その取り決めというのは、出雲の最高神たる大国主大神が天照大神の子孫(すなわち天皇)に地上の統治権を譲る代わりに、「神事(かみのこと)」「幽事(かくれたること)」は大国主大神が治めることにするというものだ。

出雲大社の大国主大神像。足もとに因幡の白ウサギが控えている。

 この取り決めに従って、神々は「神事」を司る大国主大神のもとに年に一度集まるというわけである。

 今ひとつ腑に落ちない説明であるが、今はこれ以上深入りしないことにする。

 では、集まった神々は出雲で何をしているのか。

 前述のように、出雲大社では「神議り」をしているとする。では、何の会議なのか。広く普及している説では、縁結びの相談とされる。出雲大社が縁結びの神社として名高いのも、この説に基づく。

 しかし、異説も少なくない。たとえば、酒造りのためだと伝えている地域もある。料理をするという地域、里帰りだとする地域もある。神魂神社などでは、10月は伊奘冉神(いざなみのかみ)が亡くなった月なので、追悼のために集まるのだとしている。

神々は伊奘冉神を追悼するために集まると伝える神魂神社。

 神在祭を行う神社の中にはユニークな説を伝えているとこともある。たとえば、美豆紀神社は、この神社のご祭神が美人なので神々が会いに来るのだとしている。また、多賀神社では神々は食事をしたり恵比寿神の釣りを見学したりするという。

 変わったところでは、10月は陰が極まる月なので、もっとも陰の性質が強い出雲に、陽の性質をもつ神々が集まってバランスをとるというものがある。陰陽師あたりが考えたものだろう。

 

◆新穀を携えて出雲に里帰りする神々

 神無月(神在月)の伝承が早くから広まっていたのは、出雲系の氏族が各地に移住していたからだとする説がある。平安時代に編纂された神社名鑑に、「出雲」を冠した神社や出雲系の神を祀る神社が出雲以外の土地に多くみられることが、その根拠とされる。

 この説が正しいとすると、地方に移住した出雲系の氏族たちは、容易にかなわぬ里帰りを神に託したことになろう。では、なぜ10月なのか。

 旧暦の10月は秋祭が終わった頃に当たる。秋祭は最初の収穫物を神に捧げて感謝する祭なので、神々はそれらの奉納物を携えて出雲に集まるのではなかろうか。

 そう考えると、神々が出雲で酒造りや料理をするという説ともつながってくる。持ち寄った米で酒を醸(かも)し、野菜や魚などで料理をするというわけだ。

 そして、その酒と料理を本家の当主ともいうべき大国主大神に捧げ、共に飲食して楽しむのだ。

 佐太神社の伝承によると、神々の中には神等去出祭がすんでもなかなか帰ろうとしない神がいるという。そうした神を送り出すために止神送祭(しわがみおくりさい)がなされるのだが、年に一度の集合が宴会のためであるのなら、帰りたくなくなるのもわかるような気がする。

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渋谷 申博

しぶや のぶひろ

日本宗教史研究家

1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。
神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)ほか多数。

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